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INTERVIEW

写真家 壹岐 倫子さん(前編)

Text & Edit:Eriko Azuma

ものづくりは、あらゆるものに宿る命の温度を繋いでいくこと。

時代を超えて育まれた美しいクラフトマンシップに焦点をあて、心動かされる「ものづくり」の背景を紐解いていきます。

写真とダンス、アプローチの異なる2つの表現を、多重露光による幻想的な作品として発表しているアーティストの壹岐倫子さん。ダンサーでもある壹岐さんが自然の中で踊り、光と重ねることで、見えてくるものは何か、自然と人間とは何かを問いかける作品「DANCE」を、女性の美しさを引き出すSAYAAKA DAVIS のパターンにのせた美しいカプセルコレクションが、ブランド設立10周年を記念して誕生しました。親しい友人でありお互いのファンだという2人に、コラボレーションやこの先の創作活動にまつわるお話を伺います。

互いの作品に新しい命を吹き込む、幸せなコラボレーション

Sayaka Tokitomo Davis(以下Sayaka): 今回のコラボレーション、本当にありがとうございます。とても素敵な作品が誕生したことを幸せに感じています。

壹岐倫子(以下壹岐):私こそ本当にありがとうございます。自分の作品が布にのって揺れ動いているのを見て感動しました。自分1人だと写真を撮って展示するところで終わってしまいますが、その先があるということに気付かせていただきました。

Sayaka:ブランドとして10周年を迎え、個人の表現活動や、ブランドとしてどう進んでいくか、これからの指針となるようなプロジェクトをやりたいと思い、色々考えを巡らせていました。ファッションは自分の表現活動だけではなく、人に着ていただくことで初めて意味を持つもの。それが面白いところでもあるけれど、その中で軸となる自分自身が大事にしていきたいことってなんだろう。と原点に立ち返った時に「自然と繋がる」というテーマが浮かんできました。天然繊維は自然からダイレクトに作られたものなので、洋服と自然は切っても切れない関係だし、洋服を着ることで肌で自然を感じることができる。それは「自然と繋がる」ことでもあり、それを一つのプロジェクトとして形にしたいと思った時、壹岐さんの作品が思い浮かびました。

壹岐:ありがとうございます。大事にしている作品だからこそ、大好きな人と一緒にやらせていただきいい形になったと思います。

“見えないもの”を写真で表現する作品「Dance」"

Sayaka:「Dance」を撮り始めたのはいつ頃のことですか?

壹岐:2015年の秋にNYに住み始めてすぐでしょうか。プロスペクトパークの近くに住んでいたので、よくカメラを持って公園に出かけていたのですが、何も考えずに自然の中を歩いて写真を撮っていて、そんな時「木も一緒に踊ってるな」と感じたのがきっかけです。自己表現のひとつとしてダンスもやってきたのですが、「自然と共に踊る」ということをテーマにしてきたので、これを写真で表現できたら面白いなと思いました。私にとってのダンスは目に見えないものを感じたり、自分自身と繋がるためのツール。写真に関しても目で見た美しいものをそのまま撮るのではなく、“見えないもの”を撮りたいという気持ちがあって、その感覚を写真で表現するために、多重露光という方法にたどり着きました。

Sayaka:まるで印象派の絵画のような幻想的な世界観が美しいですね。多重露光とはどんな手法なのでしょう?

壹岐:写真を何枚も重ねるのですが、私は自分が動いたり風で木がなびいたりするシーンを重ねて撮影しています。あえてずらしたり動いたりして異なる絵を重ねていきます。写真はその時のその瞬間1枚しか残せないけど、多重露光の場合、何枚か重ねることで動画のように時間の経過を残すことができる。今目で見えているものには、全て過去の積み重ねがあるし、自然も長い積み重ねの上にできている。それは写真を重ねることにも通じると思っています。

Sayaka:完成したサンプルの写真を送った時、壹岐さんに「私の作品に新しい命を吹き込んでくれてありがとう」と言っていただいたことが本当にうれしくて、そんなふうに思っていただけるなんて、この仕事をしてきてよかったなと心から思いました。同時に、人とコラボレーションすることの本当の意味を知った気がしました。

壹岐:服として人が纏うことによって、自分の作品が自然に還ったような、自分のやり続けてきたことが一つ巡ったような実感があり、本当に感動したんです。共鳴できる人と一緒にものを作ることで、自分の力以上の結果に繋がるという体験が初めてだったので、こんなギフトのような幸せな体験をさせていただき、本当に感謝しています。

Sayaka:壹岐さんが2015年にNYに来て2019年に帰国されるまで、一緒に色んなところにいきましたよね。大切な友人でもあるし、クリエーションの話もできる同志のような、切磋琢磨できる関係だと思っています。

壹岐:私のダンスの先生がSAYAKAさんと共通の友人で「NYに行くなら素敵な友達がいるよ」と紹介していただき、今では夫婦ぐるみで仲良くしていただいています。NYはたくさんのアート展が開催されているので、よく一緒に展示を観にいきましたよね。

Sayaka:展示を観た後にお互いに感じたことを交換したりして、「こういう見方もできるんだ」という視点を教えていただくことも多く、とても尊敬しています。2019年に壹岐さんがNYで開催された作品展もすごく素敵でした。自分の背丈ほどある大きな和紙にプリントされた作品群の中を歩いていると、森の中にいるような、別世界に入るような感覚になりました。あの時あの場所で自分の体を通して感じたことは、今でも体験として残っています。

壹岐:あの時、自分にとってベストな形だと思う展示を観ていただき共感していただけたことが、今回のコラボレーションにいい形で繋がっているのかもしれませんね。

Sayaka:実は数年前にも一度コラボレーションにトライさせていただきましたが、その時はアプローチの方法も違っていたし、壹岐さんの作品を洋服にうまく落とし込めませんでした。なのでいつか絶対にコラボレーションを完成させたいという思いを抱き続けてきました。今振り返ると、当時はコラボレーションと言いながら、自分がこうしたいという思いが強く、どこか一方的だったように感じます。服作りを通して様々な人と交わる中で、クリエーターの方を信頼して、できるだけ自由にやっていただくことが、その魅力を最大限に引き出せると思うようになりました。今回は壹岐さんの「Dance」という作品をそのまま使わせていただき、それを自分がどのように洋服に落とし込むかというアプローチでやらせていただきました。

繋がることで生まれる、新しいクリエーション

Sayaka:素材に関しては、和紙にプリントした作品がイメージにあったので、綺麗すぎるよりは自然の動きが感じられるテクスチャーにしたいと思いました。今回使っているのはシルクキュプラのローンを天日干しにした素材と、キュプラ100%のサテンにクラッシュ加工を施した素材。どちらもシワのテクスチャーが残っている揺れるようなドレープ性のある素材で、写真の世界観に合うと思い提案させていただきました。

壹岐:初めてサンプルを拝見した時、「言うことなしってこういうことなんだな」と感動しました。作品を布にプリントしてみたいとずっと思っていたのですが、私の力だけではできないことでした。人と一緒にやることで自分の作品がこんなにも広がるんだ。という喜びが大きかったです。

Sayaka:壹岐さんが感動してくださり、そのことが心から嬉しかったです。今回のプロジェクトを通じて、人と繋がることで自分の表現の範囲を超えた新しいものを生み出せるのだという感動があって、これこそが私が今やりたいことだと感じることができました。お互いに共鳴できる人と何か新しいことを生み出す。そんなものづくりを続けていけたらと思っています。

壹岐:私は誰かと一緒にものづくりをした経験がなく、あまり人と関わらず、ずっと1人でやってきました。コラボレーションというプロジェクトに対して、どうやって進めたらいいんだろうという戸惑いがあったのですが、幸せなことにSAYAKAさんという理解しあえる人とコラボレーションすることができました。思っていた以上のものが生まれた感動を体験させていただいたので、本当に「ありがとう」という気持ちです。

写真家

壹岐 倫子

愛知県名古屋市生まれ。地元名古屋でカメラマンとして活躍した後、2015年にニューヨークに渡り、多重露光による作品「Dance」を発表。2019年にはベネチア国際アルテラグーナ賞ファイナリストに選出、ニューヨーク「The Blanc Art Show2019」に出品するなど国際的に注目を集める。ダンスや旋回などの身体的表現を通じて感じた普遍的な欲求や自然観、女性性などをテーマに、写真での表現に取り組んでいる。

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